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ウィズコロナ時代のデータ利活用とプライバシー問題とは|グラフ代表 原田博植✖️弁護士 森亮二氏対談(後編)

「コロナ禍によって爆発的に仮想化された人々の行動データの利活用とプライバシー保護をどう両立するか」というテーマについて、グラフ代表の原田と、同社社外取締役でもあり、長年にわたって個人情報保護問題に携わってきた弁護士の森亮二氏が対談を行いました。

前半では、情報保護に対する人々の心理的な変容、有事におけるデータの利活用とプライバシー保護のバランス、その前提として国家や企業にどういう態度が求められるかということについて、それぞれの考えを聞きました。後半では、今社会全体がどう変動しているのか、その中でグラフはデータサイエンス企業としてどうあるべきかについて語ってもらいました。

前編はこちら▶︎


■ コロナによって表出したイデオロギー主導への転換

──世界と比較しても、日本では政府と国民との間に「心理的安全性」が育まれていないように思います。そうしたことが今回の騒動をきっかけに一気に表出化したようにも思いますが、その裏にはどのような社会の変化があったと捉えていますか。

原田:これについては、エコノミーとイデオロギーのバランスがあると思います。少し前までは、グローバルで見ても段違いにエコノミーの優先度が高かったですよね。そこにコロナ騒動が起こって、政治・国体の舵をどう切るかの優先順位がぐっと上がりました。今、データベースをクラウドからオンプレミスに戻すという動きがありますが、これはエコノミー主導のときには考えられないことです。

技術が進化すれば、基本的に人は古いテクノロジーには戻りません。例えば、人類が宇宙で暮らせるようになってそれに慣れ親しんだら、地球だけに固執する生活に戻ることはない。有史以来、人類の住む土地が拡がっていることから見てもそれは明らかです。IT分野でも同じことが言えるはずですが、今、実際にクラウドからオンプレミスに逆行するということが起きています。

エコノミー主体でテクノロジーが動いているときには考えもしないことが起きているのは、結局、社会がコロナや国家間の緊張という外因を得て、エコノミーからイデオロギー主導に切り替わったからではないでしょうか。

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森:原田さんのおっしゃる通りだと思います。

今、世界中で、エコノミー重視で進んできたこれまでの反動が起きています。

例えば、先にお話したプラットフォームの健全化について言えば、トランプ米大統領のツイートの内容に対し、Twitter側が「攻撃的だ」として警告のタグをつけるという騒動が起きました(※)。アメリカでは、大統領が表現の自由を主張して、それに対してプラットフォーム側が「攻撃的な言論は許されない」とはねつける形になっているんです。

日本の状況と比べると、これはすごい状況ですよね。

日本では「誹謗中傷を規制すべき」「発信者情報開示をもっと簡単にすべき」ということを自民党が提案し、それに対して政府の検討会で「匿名表現の自由を制限することになる」という点で議論を進めているわけですから、こちらの方がまだ健全な状態だと思います。

アメリカやフィリピンなど各国の首脳を見ていても、ポピュリズムの行き着く先、エコノミー重視の反動で、世界的に世の中の再シャッフル化が始まっているように思います。

"(※)トランプ大統領のTwitter騒動
白人警官に膝で首を押さえつけられた黒人男性が死亡した事件を受けて、米ミネソタ州ミネアポリスで抗議デモや暴動が相次いでいることについて、トランプ大統領はTwitterで略奪者を「ごろつき」と呼び、「州兵を送り込む」と書き、さらに「略奪が始まれば、発砲が始まる」と警告した。"

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原田:イデオロギーとエコノミーのバランスは、前者に振り切ったり、後者に振り切ったりを繰り返されてきて、歴史上ずっと揺れてきたものだと思うんです。その両方にテクノロジーは存在していますが、どちらかに振り切ったときにその衝撃がテクノロジーを通じて社会に大きな影響を与えてしまうという気がしています。今回の誹謗中傷事件などは、ネットがなければ起きなかったことですよね。

■ 全体観を持つデータサイエンスベンチャーであり続ける

──ここからはグラフの今後についてお聞かせてください。そもそも森先生に社外取締役をお願いした経緯として、2017年の経済産業省の研究会で同席したことがきっかけだったと伺っています。

原田:経済産業省の「第四次産業革命に向けた競争政策の在り方に関する研究会」ですね。これはデータの集積・利活用と企業間の競争の関係について考察するための会で、私が招致されたのは、前職のリクルートでやっていたフレームワークに興味を持っていただいたのがきっかけだったと聞いています。先進国のなかでも、日本は国民のデータベースのほとんどが海外にあるという特殊な状態が続いています。それが良いか悪いかではなく、これからどうするかということを当時からよくカンファレンスなどでお話していたんですね。

森:検討会で原田さんのお話を聞いて非常に感心したことを覚えています。データサイエンスに携わる方は、企業に所属していることもあってか、こうした会で率直にお話してくださることはあまりないんです。原田さんはデータサイエンティストとしての特定のスタイルに固執するわけでなく、プライバシーのことに関してもまず耳を傾けようとしていて、虚心なお人柄と頭の良さを感じました。

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原田:ありがとうございます。そう見ていただけたのは嬉しいですね。

そもそもデータサイエンティストという役割自体、まだ職能の定義も明確にできていない状態だと思っておりまして。ただAIの技術があるからそれを扱いたいとか、前提を固定したデータ分析をしているだけでは、社会全体に職能の付加価値が行き渡らないと思うんです。今、全体観のないデータサイエンティストが多くなっているのは、企業の中でそういう経験を積めないというケースが多いからではないかとと思います。

私としては、データやAIに携わるなかで、一個人や一企業よりももっと大きな判断・重要な判断に役に立てるのであれば、それに関わりながら進みたいという思いがあります。

──原田さんが森先生に社外取締役をお願いしたいと思ったのはどういう点だったのでしょうか。

原田:先ほどの研究会でご一緒した際に、法体系に対するご自身の血肉を通した咀嚼と、それに立脚した信念を高い熱量で言語化する様子を拝見しまして、その言葉の端々に深い人間性を感じました。たとえ相手が世界最大のITプラットフォーマーでも、その知性の活かし方や正義感が揺らぐことはない方だとお見受けしました。社外取締役のお話はダメで元々の気持ちでお願いしましたので、ご快諾いただいたときは、本当に飛び上がって喜びました。

森:ありがとうございます。なんだか褒め合いになっていますね(笑)。

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──最後に、今後のグラフの展望について教えてください。

原田:一経営者の使命感として「社会の公器をつくる」ということはやはり尊いことであり、目指すところです。多様な人が食べていける仕組み仕掛けを作り、その組織のエネルギーを未知の社会の実現に還元し循環させるのが会社の存在意義だと思っています。ただ、扱っているものがデータやAIという形の定まらないセンシティブなものですので、責任が取れないような組織運営になってはいけないとも感じています。組織の在り方については今後も慎重に丁寧に考えなければいけないところですね。

森:やはり原田さんは虚心の人ですね。私は、会社が大きくなってコントロールが難しくなってきたときにこそ、本領を発揮できると思っていますので、迷わず大きくなっていただきたいですね。大きくしていただいて、必要なときには私がビジネスに待ったをかける。そういうのがグラフの将来なのではないかと思っています。

──データやAIの活用方法も、データサイエンティストという職務も、未だ形が定まりきっておらず、その役割は社会の変動とともに柔軟に変わっていくものであるように、社会全体の動きに寄り添って絶えず変容していくのがひとつの「グラフらしさ」なのかなと本日のお話を聞いて思いました。

森:そうですね。AIやデータは高いポテンシャルを秘めていますが、誰かを酷い目に合わせるのではなく、人間の役に立つように使っていただく、そういう企業であり続けていただきたいと思っています。

──森先生、原田社長、本日はありがとうございました。

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